あの方の瞳から光がなくなったのは、いつのことだったか…もぉ憶えていない。

10年前の英傑の瞳には、哀しみしか映らなくなり

いつしか、何も映らなくなった。



配属されてしばらくは、そんなこと考えていなかった。

憧れである英傑の部隊に配属され、国のためにも、この方のためにも尽くそうと意気込んでいた。



「シュバーン隊長!本日も貴族街の護衛、無事終了致しました!」

「あぁ、ルブラン小隊長。ご苦労だったな」

「はっ!光栄であります!」


栄えあるシュバーン隊に配属となり、幾年か過ぎた。

隊長殿は、10年前の人魔戦争での数少ない生き残りである。

隊への指揮も適格で、我々を良く思ってくれている。

我々も、そんな隊長を敬愛し、この隊に所属していることを光栄と思ってる。

『ルブラン、国のため、民のため、共に頑張ってほしい。これからもよろしくな』

『はい!私は…私は隊長についてまいります!』

小隊長になったときも、優しいお言葉を頂戴し、この方のためならば命をも惜しくないとさえ思えた。

その時までは、あの方の瞳にも言葉にも意志があり、光が宿っていた。



しかし、隊長殿の姿を見るたびに、最近は思うことがある。

その瞳には、光がない。

表情も、滅多に動くことはない。

アレクセイ団長閣下と話される時には、失礼ながら…

人形のように見えることがある。

このお方は、何のために生きておられるのだろう…




「隊長!シュバーン隊長!!どこにいらっしゃるのですか!?…何が…何がどうしてこんなことに!」

バクティオンでユーリ・ローウェル達の話を聞き、神殿の奥へ進んだ。

彼らの話を完全に信じたわけではない。

しかし、最近の団長閣下の行動は謎めいたことも多く、隊長殿がそのために隊を離れていたこともある。

団長閣下は、まるで道具のように我々の隊長を扱う。

隊長も…それに大人しく従っていた。いたのだが…きっと本意ではなかったのだ。

隊長が、団長閣下を敬愛していたのは知っている。

隊長は、団長閣下が何をしようとしているのか、わかっていながらも従わざるを得なかったのだろう。

それほどまでに、団長閣下への信頼と敬愛は厚かったのだ。

だから、心を、自分を殺しておられたのであろう。


「隊長!シュバーン隊長!!!」

「…その声…ルブラン、か?」

神殿の奥から声がした。

奥から見えた隊長の姿に、声が詰まった。

「た…隊長殿ー!ご無事で…ご無事で…!」

「話は後だ。ヘラクレスへ向かう。場所はわかるか?」

「は!先ほど見かけております。帝都の方へ向かっているみたいですが」

「急ぐぞ!」

「は、はい!失礼ながら…団長閣下を追うのでありますか?」

恐る恐る聞いてみた。

しかし、ここまでして団長閣下を追うのだろうか。

初めて湧いた隊長への疑念だった。

ここで返答を聞いて、隊長への気持ちが変わることはないだろう…

いや、変わらないからこそ、止めたい。

また、騎士団長の下へと、戻られるのであれば…

前を走っていた隊長が振り向いた。

怒鳴られるだろうか、不謹慎だと、そんな場合ではないと…

しかし、隊長は「そうだなぁ…」と呟いて、頬を緩めた。

「ケジメ…つけに行くんさ」

そう言った隊長の瞳には、何年ぶりであろうか…光が宿っているように見えた。




ザーフィアス城で再開した隊長は、名を『レイヴン』と仰られた。

ユーリ・ローウェル達とはしゃぐお姿…あんなに生き生きした隊長は初めて見たかもしれない。

瞳にもお言葉にも、光と生きる意志が戻っておられるようだ。

「ユーリ・ローウェル!」

「げ…ルブラン…何だよ、まだ何かあるのかよ」

「貴様には、言いたくもないが……感謝している」v
「は?何を、突然…」

「言わずにはいられんかったのだ。…騎士団長を止めてくれ」

「言われなくても、止めるさ」

きっとこの青年に、真意は伝わらなかっただろう。

伝わらなくていい。

世界と共に、隊長を救ってくれた感謝を、言えただけでいいのだ。

食堂を出る彼らを見送っていると、軽く肩を叩かれた。

「…ルブラン」

「え…ぁはっ!何でしょうか!」

「心配、かけたな。…これからも頼むぜ」

「た…たい、隊長…かしこまりました!このルブラン、命に代えましても!!」

「ただのおっさんに対しておーげさだって…だが、心強い」

「た、隊ちょ…いや、レイヴン殿ぉぉ〜…」


この方についていこう。身命を賭して。

凛々の明星を見送り、心に誓う。

「ありがとう…隊長を、頼む」

直接伝えられなかった言葉を呟き、もぉ姿が見えなくなった彼らに敬礼を送った。










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え・・・ユリレイでも、アレシュバでもなく・・・

ルブラン→シュバーン(レイブン)です。

『×』ではなく、あくまで『→』です。じゃなかったら大変だ!(笑)

シュバーンは元から寡黙とかじゃなくて、生きる意志も持ってたし、部下への手厚い働きかけもあったんじゃないかと

シュバーン隊長への尊敬の念は、そういうところからきてて

ルブラン小隊長は、レイヴンとして生きることになっちゃったけど、これでよかったと思ってるんじゃないかなーって。

ユーリへ感謝の言葉を言ってるのを妄想して生まれました。

だから初めは、ザーフィアス城のところしか考えてませんでした。

もっと短くなるつもりが、結構長くなってました。

きっとシュバーン隊への愛だと思います(笑)